2011年07月21日(木)
ピラミッド型利益配分構造を打破してネットワーク型「創造協働」政治の確立を

 
60年を超える一党支配は、日本の政治だけでなく社会にも大きな歪をもたらしてきました。政策は官僚機構に丸投げをして、規制と税制、予算の配分を差配することで選挙における安定的当選と政治的独占をゆるぎないものにしてきた旧政権。

  ピラミッド型の巨大な利益配分システムは、社会のいたるところに浸透しています。
 今もなお、権力の主流を占めているのはこのようなピラミッド型の利益配分構造を守り利益を享受している人たちです。

これまで幾度となくこのピラミッド型構造の利益享受体に対する挑戦は行われましたが、その度に敗北をきしてきました。
既得権益の擁護、一部の利益団体の利益の独占がいかに大きな不公平と不公正を生んでいようとも、あまりにもその傘が強大で社会全体を動かすまでいたりませんでした。その背景の一つには、日本の優れた技術や教育力に裏打ちされた経済の成長があったのかもしれません。日本人の勤勉さが政治や社会の矛盾を覆い隠していたとすればこんな皮肉なことはないと思いますが政治がいつまでも国民の優秀さや勤勉さに甘えられる時代はとうの昔に終わっています。

 真実を伝えたいと言う人たちの戦いはさらに絶望的なものでした。
大きなジャーナリズムそのものが、記者クラブ制度の上に胡坐をかいており、ピラミッド型システムの一部に組み込まれていたからです。
 
しかし、その堅牢な砦も新しい知識情報化社会の前に脆くも崩れ去りました。国民が世界の情報を瞬時に得るようになり、一部の統制された情報ではなく真実を知るようになると「壁の向こう」のこれまで一部の人しか知りえなかった真実がより具体的にわかるようになってきました。
時代の変化に取り残され、多様な民意を汲むことも適切なパラダイムを創造することもできずにいる姿は醜悪そのもので、大きく国益さえ損ねていました。政権交代の原点は国民の怒りにありました。天下り、官製談合、特殊法人、特別会計、随意契約、規制の上に胡坐をかく既得権益擁護の醜い構造がより一層明確に浮き彫りにされて、それを正す新しい勢力を国民が求められると言うのは、歴史の必然でもありました。
 
古い官僚社会主義・中央統制集権政治を打破して、国民主権の創造性と協働の政治を行う。「依存と分配」の政治ではなく「自立と創造」の政治を確立する。そのために私は、新しい民主党の立ち上げに関わり、政権交代可能な政治風土を醸成するとともに民主主義の健全な基盤を作ることに力を注いできました。
 
そして私たちは終に2009年に政権交代を果たしました。参議院の与野党、「逆転の夏」に次ぐ「交代の夏」の熱気は日本中を覆いました。日本は変えられるし、変えるんだと言う決意を私たちは強くしていました。変革への希望と確信が閉塞した日本の上を覆う黒雲さえ吹き飛ばすのだと私達は考えていました。

政権交代から2年が経過しようとしています。今では、あの熱気はとうに去り、民主党政権には多くの失望と怨嗟の声が寄せられています。「孤立した総理のワンマンプレーが目立ち、それを支える執行部が総理の持つボールを取ることに躍起になっている。これでは国民がうんざりするのは当たり前だ。」と野党からも揶揄される始末です。

 総務大臣に選任された私は、「真の政治主導を実現するためには官邸をはじめとしてチームとして人心を掌握することが大事だ。総理主導の責任体制の明確化を図るためには内閣法をまず、変えて政権交代時に約束をしたことを実行することが第一だ。」と主張をしました。長い間に築かれた官僚中心のピラミッド構造は、民主党政権を異物と扱い政権交代の果実を奪うことは目に見えていたからでもありました。

あのウィッキリークスで暴露された外務官僚の普天間基地移転問題をめぐる暗躍を持ち出すまでもないことです。民主党政権は、至る所で「見えない陰湿な抵抗」にあい自壊していきました。取り調べ調書まで改竄して民主党首脳を罪に陥れることが目の前で起きていながら、同じ民主党の中なのにそれをおかしいと指摘するのではなく指弾する先頭に立つ者さえ現れたことは、未だに記憶に新しいことです。古い財務官僚の論理をうまく言いこなせ、増税路線を走る議員は政策通と「評価」され時代を変えようとしてきた議員は「異物」として排除されていきました。

総理直属の裏方部隊が官邸に入ることもなく、総理に人事権を集中させる内閣人事局もとん挫したままとなりました。政策自身に番号をつけてフォローアップを行う政策背番号制も掛け声倒れに終わっています。内閣を去って10か月。光の道三法案の柱となっていた「光の道・規制改革法案」はまるごと葬り去られ、分散型自然エネルギーを地域で生み出して地域の富を生み出す源泉とする「緑の分権改革」も子どもたちに新しいICTを使って協働教育を行う「未来の学校」も財務省主導の仕分け人たちに大きく仕分けられてしまいました。

年度末の使い切りを止めさせて1000億円、総務省だけで削減することに成功しましたが23年度予算にその成果を反映させることはできたとはいえません。一律、1割削減の予算キャップを突破して2割削減を実現した総務省予算でしたが、次年度予算案に対するアドバンテージの約束は反故にされ続けました。

何をどう失敗したか?もう明らかです。
進化した情報化社会では、クラウド、オープンアーキテクチャーという新しい仕事の仕方が主流です。ピラミッド型のレガシー(旧態然たる)システムでは、進歩も解決もあり得ません。オープンアーキテクチャ ( Open Architecture) とは、主にコンピュータやソフトウエアの世界で使われる用語で文字通り公開された基本設計のことです。基本的な考え方や設計を広く公開することでより多くの開発者の知恵と力を集めることができるようになります。
 これは社会も同じことです。
私の師である松下幸之助さんは、広く衆智を集めよと私たちに説いていました。衆智を集めるためには、まず理念を明らかにして自らを公開しなければなりません。
閉ざされている、独占しているということが、強みでもなんでもなくなった社会に私たちは生きています。

民主党の議員が内閣に入ったものの、その一部が本来のネットワーク型である自分たちの特性を忘れて、旧態然たるピラミッド型の官僚機構に自らを適合させたのは、とても残念なことでした。これでは自民党時代と変わりません。否、自民党よりも政権の経験がない分、さらに悪いことになってしまうのは自明の理です。


2011年7月21日。退陣を表明した(?)菅政権はガバナンスの柱を失い漂流を続けています。国会内では脱原発解散がまことしやかにささやかれ、被災地の厳しい現実とかい離した政治に国民の怒りが注がれています。

正しい開示と的確な避難と放射能防護を求め続けてきましたが、縦割り行政の弊害がここに極まっています。放射能に汚染された稲わらを与えられた肉牛の流通が問題となっていますが、牧草は規制しても稲わらを規制しないと言う信じられないミス。これは、縦割り行政の弊害を打ち破るはずの消費者担当がいかに機能していなかったかの証左だとの批判につながっています。

俯瞰的な視点で提言を寄せても馬の耳に念仏の状態です。
野党時代に薬害エイズ問題や薬害肝炎の問題を明らかにして責任を追及してきたにも関わらず、今では、まるでその時に開示を拒んだ旧政権とどう違うのかという疑問さえ禁じ得ない状態です。菅政権は、パニックを恐れるとの理由でSPEEDIなどの情報開示を怠りました。子どもたちなど放射能の影響を受けやすい国民の放射能防護が後手に回っています。
 今、できることをしなければ5年後、10年後に深刻な健康被害を国民に与えてしまいます。

6月2日の代議士会で菅総理は、私の「子どもたちを避難させて欲しい」との質問に対して善処を約束しました。私が提案した不信任案に反対する条件は、総理の辞任よりも子どもたちを守ることに力点がありました。しかし、この部分はほとんど報道されることなく私は、猛烈な非難を受けました。私がどんなに非難されようともそれは私の問題で私が対処すれば済む話です。看過できないのは、その「約束」が未だに果たされていないことです。

民主党の中でも最も信頼する代議士の一人。篠原孝さんと話をしました。篠原さんが実際にチェルノブイリに行ってその時の考えをまとめた「キエフから児童・生徒が消えた1986年5月  クリミア保養地への学童疎開 - 2011.7.2 」の続編「夏休み学童疎開で福島の子供を被曝の危険から救う」の論文をいただき今後の対応について話し合いました。

福島県飯館村の若者から提案いただいた「被曝」の懸念がある国民に対する受診・検査を国に義務付け、健康被害から救済するための法律。ホールボディーカウンター等さらに整備すべき機器の数。モニターする項目(血液、尿、精液等)について専門家に意見を求め答えが返って来ました。遅ればせながらも議員立法の基礎的データがそろい始めています。

子どもたちに対して、日本維新の会としてもできることを実行しています。しかし、政府は、篠原さんや桜井参議院議員のような同じ認識の国会議員もいますが、まだ総理の「約束」は政府として実行されていません。

「総理の権限にも限界がある。」という言い訳は、民主党には許されません。それを変えるために政権交代をしたのですから。

ピラミッド型の構造で仕事をする人たちが、私たちの視界を遮っています。
政治不信が募り人心さえもが倦んでいっています。この責任は与党である私にあります。新しい時代にあった政治を創るために、ここで止まるわけにはいきません。

この状況を見ていると率直に言って民主党まるごと再生させることができるのだろうかと言う懸念も消えません。意識がバラバラで結束力よりも遠心力が働いているからです。
自民党をぶっ壊すと言って自民党を結果として延命させたのは小泉総理でした。そして古い自民党的な構造は今もなお残っています。そこに戻ることだけは阻止しなければなりません。しかし、同時に民主党自身にも解党的な出直しが迫られているのではないかと思います。

古い構造を壊して新しい地平を創る。
国を建てなおして国民の生活を守るためには大きな改革の断行が必要です。地球環境の平和、社会環境の平和、内なる平和の「3つの平和の理想」を実現するためにも政策資源を総動員しなければなりません。「人間の安全保障」「教育の改革と協働教育の実現」「地域主権改革」「光の道ICT維新ビジョン」「緑の分権改革」「未来の学校」などの改革は、その手段です。

レベル7という大きな事故が起きて収束をしていないにもかかわらず今なおピラミッド型の地域独占・原発依存を守ろうという勢力は衰えたように見えません。総理の脱原発宣言もいつの間にか個人の意見に落とされています。

私自身にも政権与党の一員としての責任を厳しく突きつけなければなりません。言っていたけどできなかったでは済まさない話です。政府を出たといっても、言い訳や責任転嫁は許されません。代議士としての政治生命をかけて行動を続けてまいります。 .