2010年02月21日(日)
椚の「五郎」

 
高木瀬小学校2年生のときに夏休みの宿題で行った理科研究が佐賀市で優秀賞をとりました。カブトムシの生態を観察日記にしたものです。

 高木瀬寄人のはずれに小さな川があって、そこには椚の木が立っていました。
 

 夏になるとカブトムシやクワガタムシがたくさん集まって、私たち子どもには天国のような木でした。落ちると川ですから、危険ではあるのですが上るのに苦労しないような木の瘤があって、おおきな枝と枝の間には子ども二人が座れるような木の又がありました。
 

 ある日、その木の又に座っていると蛇と出くわしました。1m半はあるような大きな蛇です。体がすくんで動けなくなっていると声が聞こえたような気がしました。椚の木の葉がさわさわと風に鳴っているのです。「大丈夫だよ。怖くないから。」と僕には聞こえました。なんて優しい木なんだろうと僕はこの椚に五郎という名前をつけました。

 五郎は、いつも穏やかで僕たちを迎えてくれました。中学生になり、そして高校生になり。中学校では高木瀬を離れなければなりませんでしたが、つらいことがあると五郎のところに来ては風の音を聞いていました。

 「大丈夫だよ。空は広いよ。土は暖かいよ。」
五郎はそんなふうに語りかけてくるのでした。

 大学を卒業し、松下政経塾に入塾した時にも五郎に報告しました。
結婚し、県議会に議席をもたせていただいた時も同じでした。

 30代のある日、代議士となって久々に五郎のところに行くと影も形もありません。川の形も変わっていて岸辺には土の塊。ショックで声も出ない状況でした。お別れもないままに消えてしまったのです。椚の木の声は二度と聞こえませんでした。