2009年10月02日(金)
人間が中心の情報通信政策

 
 大学時代の心理学の恩師で仲人でもある大山先生ご夫妻が、総務大臣室を訪れてくださいました。
  先生は心理学の世界最先端を走る権威です。多くの優れた研究を発表され日本心理学会からも国際特別賞を受賞されています。仰ぎ見るような研究をなさる方のなかには近寄りがたい方もおられますが、先生は全く正反対の優しい気さくなお人柄で、私たち学生を暖かく包んでくださり、それぞれの長所をまるで魔法のように伸ばしてくださいました。


 
 「人間あっての政策です。」
 大山人間科学研究会を主催され、「ヒューマン・エラーの心理学」「色彩学入門―色と感性の心理」など数々の著書でも知られる先生のお言葉が心に響きました。


 私は新しい情報通信政策においても、どのような競争政策の観点から今までの政策のレビューを行い、どのような競争環境が公正でより世界との競争を主導できるのかという観点からタスクフォースを組織し政策をまとめようと考えています。

 情報通信はコミュニケーションの基礎をなすものであり、災害や教育など生活のインフラそのものですし、民主主義の基盤を保障するための大切なものです。全ての人が公平にアクセスを保障され、
安全な環境の中で様々なサービスを享受する権利を有します。

 しかし、その政策形成のこれまでのあり方をみると多くの反省点が浮かび上がってきます。
確かにハードウェアの問題は、多くの有力企業がしのぎを削り人員や資金を投入しています。この流れをさらに強固なものとし,国際競争力を高めることは、私たちの使命です。しかし、競争はあくまで手段であって目的ではありません。人間にとってどれだけ使いやすく快適であるか。公平で公正であるかが重要です。

 通信の使用者である「人間」の問題は、ともすれば軽視されがちです。研究開発部門に人間科学に関する研究がどれだけ反映しているでしょうか?最近でこそ、企業は人間科学のことがわかっている人を採用する傾向にありますが、まだまだ人間科学そのものを中心にすえるという動きは強いとは言えません。
 通信速度や容量が世界最先端であるのに対して、アプリケーションが遅れ気味だと言われる背景には、このような政策策定の問題点があるのではないかと考えています。

 心理学科の親友が以下のような指摘を送ってくれました。

「通信において人間の問題を軽視することによる害毒は,高齢者や障害者(チャレンジド)のような社会的に弱い立場にある人たちに対しては,いっそう顕著にあらわれます。企業の人は,「開発費がかかる」「開発期間が長くなる」「市場が狭い」ことから,これらの社会的弱者を対象とした研究開発は気が進まないようです(私は企業や医師と組んで片麻痺患者用のリハビリテーション機器の研究科発を行っています。この患者さんは全国で百万人規模いるのですが、それでも市場としては狭く自力だけでは開発しきれないようです).それゆえ政府の政策が強く反映することになります。

 心理学と情報通信技術が接近したのはここ20年くらいの出来事だと友人は言います。
情報社会の利便を享受できない高齢者や障害者が苦しんだり、経済的な不利益をこうむるということはあってはなりません。

 
 情報通信など日進月歩の発展分野なら尚更です。
 情報の流れも誰かが一元的に流すだけのプラミッド型組織では、多くの人たちが取り残されてしまいます。全員参加型の新しいシステムが必要です。

 先生のお言葉をかみ締めて政策実行に励みます。