2009年09月13日(日)
よみがえれ!有明海~諫早湾干拓事業 早期の開門調査を
「海のことは漁民に聞け」
自公政権における農水大臣のこの言葉も空しく、「諫早湾干拓事業によって宝の海を奪われたのではないか。早期開門調査を行い宝の海を返してほしい。」と主張する漁民の声は、無視をされ、はぐらかされてきました。
佐賀県議会も全会一致で早期開門調査を求めていますが、昨年、自公政権が出した結論では、あと何年経てば開門調査が行われるか見通すことができません。
「よみがえれ!有明訴訟」原告団の皆さんと議論を深めました。
小長井・大浦漁業再生等請求事件の意見陳述書を掲載しておきます。
政権が変わりました。
「あと何人死ねば水門ば開けてくれるとですか。」という漁民の皆さんの悲痛な叫びに答える政策決定を行いたいと思います。
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平成20年(ワ)第258号 小長井・大浦漁業再生等請求事件
意見陳述書
2009年(平成21年)9月14日
原告ら訴訟代理人弁護士 後藤富和
‐開門のための事前アセスは不要である‐
1 相次ぐ自殺
1999年1月、柳川市で働き盛りの漁民が首を吊って自殺し、同じ月、同じ漁協に属する漁師が焼身自殺で命を絶ちました。2ヵ月後、同じく柳川市の漁師が首を吊って命を絶ちました。「あと何人死ねば水門ば開けてくれるとですか。」漁民たちが佐賀地裁に開門を求めてからもう7年が経過しました。この間、マスコミに明らかになっているだけで22名の漁民が自ら命を絶ち、人知れず命を絶った漁民を含むとその数は何倍に膨らむか知れません。
昨年6月、佐賀地裁は、国に開門を命じる判決を下し圧倒的世論に喝采をもって受け入れられました。しかし、国は「アセス」という「まやかし」で国民の目を誤魔化そうとしました。厳しい自然を相手にした漁民たちは、不漁が一時的で、いずれ海が良くなると思えば歯を食いしばって我慢します。しかし、開門アセス発表後も、漁民の自殺が後を絶たないのは、海が良くなる兆しが見えない、つまり、「アセス」が漁民にとって希望の光を絶つ「まやかし」にすぎないことを意味するのです。
2 被害発生に関するアセスは不要
今年8月4日に発表したアセス方法書で国は、開門に伴う調整池への海水導入による農業生産への影響(農業用水の確保、地下水の塩水化、潮風害、浸水・湛水被害)、背後地防災への影響(既設堤防や排水樋門等の構造物への影響、家屋等への浸水)の可能性を指摘し、アセス調査の対象としています。
しかし、被害発生の可能性を理由にこれらの事項を調査の対象とすべきではありません。すなわち、農業用水確保の問題は、水門を開放し調整池に海水を導入する以上必ず検討しなければならない必然的事項であり、これをもって開門の可否を論じるのは本末転倒であると言わざるを得ません。また、地下水の塩水化や潮風害などは、干拓地であればどこも抱える問題であり、調整池(淡水湖)を設けていない佐賀平野の干拓地等では農地と有明海が堤防を挟んで直接接しているにも関わらず、特段の対策は取られていません。また、農地や背後地への浸水等の被害という点では、今年6月に潮受け堤防が諫早大水害の大部分を防ぐ効果がないことを農水省自身が認め、その旨、諫早市長に報告していますし、現に、潮受堤防締め切り以降、背後地の湛水被害の回数は以前の約3倍に激増し、さらに、今年7月も背後地の森山地区が湛水被害に見舞われています。既存堤防等への影響は、開門による影響というより、これまで国が堤防の改修補修を怠ってきたことが原因であり、水門開放に関わりなく背後地住民の生命財産を守るために早急の対策を必要とするものです。国会議員らが開門に伴う被害は何かと質問したところ、農水省担当者が「予期せぬ被害です」としか答えられなかったことは、現時点で開門にともなう被害が考えられないことを端的に示すものです(2009年3月4日、衆議院農水委員会での大串博志衆議院議員の質問)。
このように国が指摘する被害は、水門開放(調整池への海水導入)による被害ではなく、開門の有無に関わらず本来国がやらなければならない対策を怠ってきたために生じるものにすぎません。
したがって、開門による被害発生の可能性を理由にアセスを行うことは許されないのです。
3 短期開門調査の実績
国は、2002年4月から5月にかけ短期開門調査を実施し、実際に水門を開け調整池に海水を導入しました。この時、農水省がアセスで懸念するような背後地への影響は生じませんでした。むしろ、農水省は、「有明海全体としての環境改善の方策を講ずるための総合的な調査の一環として、開門調査を行うことが必要である」と開門の必要性を強く訴え、その上で、「皆さまのご理解とご協力をお願いします。」として特に背後地の農業者に対してパンフレットを配布するなどして理解を求めています。
この時、農水省が作成配布したパンフレット「諫早湾干拓事業開門調査のお知らせ」(本意見陳述書末尾に添付)によると、防災機能について
・「洪水調整機能は変化しません。」
・「ガタ土が既設樋門の前面に堆積することは、ほとんどありません。」
・「調整池の淡水や濁りが急激に湾内に広がり漁業被害が出ないよう、排水量を段階的に増加させます。」
・「不測の事態が生じるおそれがある場合には、海水の導入を一時中断します。」
と説明した上で、開門しても「防災機能は今までどおり」と断言しています。
また、農業用水問題についても
・「潮遊池への塩水の侵入を防ぐため、土のうを設置します。」
・平常時の排水は「仮設ポンプを設置し、24時間体制でその管理を行います。」
・降雨時の塩水逆流を防ぐため「招き戸の故障箇所を補修し、適正に管理します。」
と説明した上で、開門しても「潮遊池からの農業用水は今までどおり使えます。」と断言し、背後地の農業者の理解に努めています。
誤解してはいけません、これらの説明は私たちが言っているのではなく、農水省が自ら主張し背後地の農業者たちに説明してきたことなのです。しかも、この時、農水省は開門に関する事前アセスなど実施することなく、いきなり開門を実行しています。そして、実際に約1ヵ月間、海水を調整池に導入しましたが、防災機能や農業用水への影響は生じませんでした。農水省が被害は出ないから安心してくださいと背後地の農業者に約束してきた通りの結果となったのです。
さらに、漁業については、被害が生じなかったどころか、
① 開門後3,4日で調整池の水質が劇的に改善し
② 島原半島沿いに開門期間中に限って大規模な潮目が発生し
③ 例年は夏を越せない小長井のアサリが翌年まで生存し
④ 有明海奥部で何年も捕れなかったタイラギが回復し
⑤ 有明町沖合に多数の稚魚が現れる
など、諫早湾周辺の漁業に好影響をもたらす結果となっています。
つまり、短期開門調査レベルの開門であれば、事前のアセスは必要なく、直ちに開門に着手することが可能ということです。私たちが求めている段階的開門とは、まず短期開門調査レベルの開門を実行し、その後、順応的管理の手法で徐々に開門の幅や時間を広げていくもので、事前アセスが必要でないことは短期開門調査を実行した農水省自身が最もよくわかっているはずなのです。
4 開門効果の調査は開門調査そのもの
このように、短期開門レベルの開門を実施しても農業被害は生じず、漁業に関し好影響が出ることが実証されています。しかも、アセスの調査項目には、有明海海域及び調整池の水質や底質の変化、有明海の漁業生産の影響などがあがっていますが、これらの調査はまさに開門による効果の調査つまり開門調査そのものであり、これを調査するために開門調査を実施するのですから、開門効果自体を事前のアセスの対象とすることは論理破綻であると言わざるを得ません。現に、農水省は、短期開門調査時のパンフレットにおいて「開門調査は、調整池に短期間海水の出し入れを行い、濁りや塩分などの水質や潮の流れなどの変化を観測します。」と開門調査の目的を明確にしており、濁りや水質の変化などの開門による効果を理由に開門を行うか否かを決めるとはしていません。
5 農業と漁業の両立・発展に向けて
先々月2009年7月、普段は開門を求めている漁業者たちが開門するなと求め、普段は開門するなと主張する背後地の農業者たちが開門を求めるという奇妙な事件がありました。この時、長崎県は、漁業者たちの抗議を受け入れず水門を開放し、その結果、潮受堤防北部排水門沖の小長井の養殖アサリを壊滅させ本件原告らに甚大な漁業被害を与えました。ちなみに、この前日、長崎県の有明町では漁業者が首を吊って命を絶っています。
長崎県知事は、この件に関し謝罪をしましたが、この一連の騒動は、開門拒否を貫く農水省と長崎県の頑なな態度が招いた人災であると言わざるを得ません。
本件と同種事件である「よみがえれ!有明訴訟」の佐賀地裁本訴(現在、福岡高裁に係属中)において、証人尋問に立った海洋環境工学の専門家である経塚雄策教授(九州大学)は、豪雨等の異常時の対応について「現在の気象予報の技術、それから観測網の整備ですね。そういうものを考慮いたしますと、まあ(平成11年)7月23日の降雨量、そういうものは、まあ数日前あるいは前日ぐらいには予測可能じゃないかというふうに考えます。そういたしますと、潮汐は12時間ごとに干潮を迎えますので、そういう予測が可能だった場合には、あらかじめですね、前の日に調整池水位を下げておくというようなそういう臨機応変な水門操作をすることによって湛水被害というか、そういうのは出ないんじゃないかと思います。」「気象予報とリンクした臨機応変の開門という開門操作ですね、そういうことが実現できれば湛水被害は防げると思います。」と証言しています。この証言のとおりに、気象予測とリンクした柔軟な開門操作を実施していれば、今年7月3日に森山地区に湛水被害をもたらし、濁り水を一気に大量排水し漁業被害をもたらす事態は避けることができたはずです。
私たちは、経塚教授が提唱する、環境の変化に臨機応変に対応した柔軟な開門操作(順応的管理の手法を取り入れた開門)を求めているのです。これであれば、漁業に被害が生じず、むしろ好影響をもたらし、しかも背後地の湛水被害も防ぐことができ、農業と漁業とが両立し発展することが可能となるのです。
農業にとっても漁業にとっても良い効果をもたらす開門ですから、長崎県知事が開門に反対する理由はどこにもないはずです。
農水省が提案しているアセスによると、最短でも開門の実施までに6年の期間を要します。しかも、開門には長崎県関係者の同意が必要としています。本来開門に反対する合理的理由がないにもかかわらず長崎県知事は頑なに開門に反対しています。谷川弥一前農水政務官の「理屈じゃない」という発言(2008年7月13日)が示す通り、長崎県知事は、開門による被害が生じず、逆に開門によって漁業にも農業にも好影響が出ることを十分に分かっていながら、理屈じゃない理由で開門を頑なに拒否するのです。そうなると、アセスで漁民たちをさんざん待たせた挙句、長崎県知事の「開門しない」の一言で、開門は実施しないということになります。冒頭に申し上げた通り、漁民たちは未来に希望があるから厳しい現実に耐えているのであり、長崎県知事の理屈じゃない一言で漁民たちの信頼を踏みにじれば、有明海沿岸でどれだけの漁民たちが自ら命を絶つかわかりません。農水省のアセスは、農業をダメにし、そして漁業者の命までも奪う結果を招くのです。
私たちが提案する順応的管理の手法による段階的開門こそが、農業と漁業の両立発展が可能な唯一の道です。そして、それは来年5月からでも実施が可能なものなのです。
以上