2009年04月06日(月)
日本EU議員会議ランチ・ミィーティング

 
2009年4月6日(月)晴れ 日誌

 原稿書き・日本EU議員会議・総務委員会論点整理・報道と公正についての懇談
(藤田参議院議員らと)

【日本EU議員会議】
 議員会議のランチ・ミーティングに参加しました。
 団長はヤルチェンボウスキーさん。旧知の議員さんらとも固い握手です。
私の隣はファブルス・ヴァレイユ駐日欧州連合委員会代表部参事官さん。
政治・経済部長ということで突っ込んだ議論になります。
 通訳なしの議論ですが、聞き取りやすい英語なのです。
「いつ解散になるのか?」「小沢代表は続けるのか?」という微妙な質問も。答えにくい問いもあります。ジョ-クだけははっきり言えます。
 BNPパリバ証券のチーフ・エコノミストである河野さんが基調講演をしていただきました。これまで様々な勉強会でもご一緒している河野さん。いつもながらの冷静な分析に感心しました。

【テポドン2改良型?平和と安全に対する脅威】
北朝鮮のミサイル発射は、失敗だったようです。
単なる打ち上げ花火に終わったのではないかとの観測が出ています。

 北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は5日、北朝鮮が人工衛星を軌道に乗せたとの主張について、「2段目以降は太平洋に落下し、何も軌道に乗らなかった」と否定しました。
 日本政府は当初、11時半打ち上げ、第1段が日本海(秋田西方280キロ)、次が日本の東1270キロの太平洋上に落ちた、と発表しましたが、この2段目が分からなくなったとのこと。二度にわたる誤報発令といい「ミサイル見失い」といい、信じられないことばかりです。

 「2100キロまでは自衛隊が追尾していたが、その先は追尾を終了したので、不明だ」といいます。「追尾を続けていたが、太平洋に落下したのか信号が消えた」というのならば納得しますが、追尾を終了したとはどういうことでしょう。
 いったい、このテポドン2型改良機と思われる物体が、どこまで飛んだのか、本当に人工衛星だったのか、衛星打ち上げに成功したのかさえわからないということでは、済ま ないと思います。安全保障上の追尾能力を秘匿するための配慮でこのような表現にとどめているとすれば、話は違ってきますが、初歩的ミス続きの対応を見る と、とてもそのような「配慮」とは思えません。

 「弾道ミサイルに関するすべての活動の停止」を求めた国連決議に違反するとして、厳重抗議していますが、論拠を明確にするためにも事実の開示が必要で す。 テポドン2の改良型ミサイルを「飛翔体」というわけのわからない言葉で「誤魔化」すのは辞めたほうがいいと思います。

 「なぜ日本はテポドンで右往左往するのか?技術に定見を欠く人材育成がもたらしたもの」と題して伊東 乾氏が興味深い論文を日経BPに寄せておられます。

【100cmの視点の町づくりを】
 今日から新学期ですね。
「行ってきま~す。」一番下の娘も今、元気いっぱいでを出ました。黄色い帽子が揺れています。爽やかな春風です。この風も子どもたちの背中をそっと後押しして支えてくれるように祈ります。
 100cmの目の高さ。
 小学校1年生の目線で町を見渡したとき何が見えるでしょうか?
今日から新学期ですね。通学路をはじめとする子どもたちの安全を祈るような気持ちで送ります。
 大人の目の高さでつくられた町は、安全な町とは言えません。
 27歳のときから100cmの視点の町づくりをうったえて活動してきました。
 子育て中のたくさんの方々が様々な情報を寄せていただいて、いくつもの改善もできました。
 
信号がなく、子どもたちが衝突事故の巻き添えになる危険のあった蓮池の交差点。背の高い植木が小さな子どもたちの姿を運転席から隠していた開成町の道路。歩道が途切れていることで子どもたちが溝に落ちる危険があった高木瀬の道路。
 佐賀市だけではありません、鳥栖市やほかの町でも皆さんにお願いをしてまいりました。皆さん、お気づきの箇所があったらメッセージくださいね。よろしくお願いいたします。

【ブラジルからの留学生】
17年前にブラジルから医学を学びにきて2年間佐賀医大で勉強したサントスさんが、私の会に顔を出してくださいました。地球の裏側から勉強に来て、佐賀を大好きになってくださったサントスさん。眼科医さんということですが、綺麗な瞳。人なつっこそうな笑顔が爽やかでした。

【いか~ん】
みんなが少しずつ食べる時間がズレています。
「おいは自分の机のなかけんが、食卓テーブルで仕事しよっでしょう。」
「目の前でみんなが食べるとやけど、そのたびに少しづつもらいよっとですよ。」「美味しい、美味しいってみんながいうのは良いことバッテンね。」「おいは痩せんばとですよ。」

「よかことやん。お父さんがおるときには個食にならんでしょう。お父さん、教育心理で、個食はいかんっていいよったよね。」
「目だけやなかとよ。美味しいにおいもするでしょう。」
「次々に食べるか食べんかはお父さんの意思の問題でしょう。」

【メディアの公正性をどう担保するか】
「メディアとしての役割は何か」という視点で懇談をしました。NHKについても「公共放送としての改善点はないのか」他国メディアとの比較でも検証を行いました。公共放送における政治的中立性は社会の安定と民主主義の発展のためにもとても大切なものです。大きく振れてしまう扇動的意見に対して常に冷静に振り子のもう一方の錘の役割を果たすというメディアの矜持についてもご意見をいただきました。ところが一部メディアの現状は、世論操作と紛うばかりのものです。 

世論調査についても設問の仕方自体にも公正さを欠いたものがあります。違う政治的立場の人に同じ質問をしているか甚だ疑問です。
検察・警察の発表の一方的垂れ流しを他国のメディアの中には公正を欠くものとして厳しく戒めているところもあります。若い記者さんたちは、日本のメディアでは地方に回ることも少なくありません。いわゆる「夜討ち朝駆け・察まわり」で足で稼ぐ情報収集を学ぶのですが、ことに警察などは、いろいろな情報がはいっていくる組織です。中には情報価値の少ない「ゴミ」と呼ばれるものもあります。「若い記者を、こうした現場で働かせる意味は、ゴミの中からニュースを拾い出せという趣旨です。」と話いただきました。「しかし、その本旨を忘れ、当局発表の情報をそのまま無批判に流すという誤った癖がついているのではないかと危惧しています。」
誤報をどう避けるのか、 公正中立な報道機関としてどう役割をはたすか、さらに議論を詰めました。

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【日本EU議員会議 リード・スピーチ案】
議長、発言の機会をいただきましてありがとうごいざます。民主党「次の内閣」総務大臣で衆議院議員の原口一博でございます。EU議会の皆さんの変わらぬ友情と友好に心からの感謝を捧げます。第30回の記念の会議にあたり、私の故郷佐賀を訪れていただくことも大変光栄です。鎖国政策をとっていた江戸時代、佐賀鍋島藩は世界との唯一の交易の窓口であった長崎出島を管理しておりました。世界から入る科学技術や文化の情報、特に欧州からの情報により様々な有為の人材を育てました。もしこの門戸がなかったのならば、近代日本の基礎さえも成り立たなかったと思います。
世界的な経済・金融危機にあたり新たな保護主義も台頭しつつありますが、貧困をなくし平和な世界を築く観点からも私たちは連帯して、この保護主義と戦っていきたいと思います。
ブラッセルでの日本・EU議員会議で私はドイツの童話作家ミハエル・エンデの遺言について言及しました。私たちはその時に金融のバ-チャルな記号だけが無際限に膨張することへの危機感を共有しました。貧困や紛争、戦争の元になる危険性についても議論をしたことを想起したいと思います。車にもハンドルやブレーキがあるように、金融の世界にも共通のルールが必要であり、どこかで膨張しすぎた記号を減価させる仕組みが必要です。
しかし、警告は無視され続け、2008年の9月リーマン・ブラザーズ破綻に端を発する世界的危機を目の前にしてもブレーキを忌避する声が支配してきました。先日のG20で一定のヘッジ・ファンド等に対する規制が合意されたことは大きな一歩です。日米欧などの監督当局で構成される「金融安定化フォーラム」(FSF)を再編、機能強化し「金融安定理事会」(FSB)を設けると発表したことも一定の前進です。しかし、2010年に自己資本規制の改善策を諮問とうのでは、対策が遅すぎて後手に回ってしまいます。
現在の金融危機は、これまでの危機とは質的にも量的にも全く違います。過大にレバレッジを効かされた金融証券化商品の焦げ付きにより、まるでばば抜きのジョーカーのように誰がリスクを負っているかわからないという疑心暗鬼が払拭されていません。私たちは信用そのものへの危機が起きていることを忘れてはなりません。単に金融機関の自己資本を公的資金で増強しても、それが企業活動に回らないのでは経済は復活しません。銀行だけを救済して中小零細企業を潰した教訓に学びたいと考えます。

グラフ1はニューヨーク・ダウの変遷です。
資本や市場の暴走・一企業・一業界の危機が一国の危機へ。そして世界的危機に。そして戦争。このような悲惨な歴史を繰り返してはなりません。賢者は歴史に学び、愚者は状況に振り回されて原則を省みません。1929年の世界恐慌の対応の失敗に私たちは多くの教訓を学びました。紙の上での利益を実際に利益に代えようとしたときに、現実に気づき世界的な危機に発展した1929年の現状は今と酷似しています。世界中で危険なまでに恐慌の程度が深まっていった時代。人々の中には従来の分析手法では現状を判断できないことに気が付いた人もいました。そこで起きていた問題は各国にとどまらぬ世界全体の信用経済の問題であり、世界全体の施策が必要でした。しかし、それが何を意味するかなど考慮せずに、各国は現在の急場をしのごうと多くのツケを将来にまわし、世界生産的資源を費やしてしまいました。

2%の財政出動の合意について評価するものでありますが、追加の財政出動の是非については国ごとに事情も異なり注意深く議論を進める必要があります。
グラフ2は、生産と消費の落ち込みです。日本では10-12月のGDPの落ち込みがマイナス12.7%でした。足元が崩れ落ちるような真っ逆さまの転落の危機です。年率マイナス15%ともなれば75兆円もの富が失われた計算となります。大きなデフレ・ギャップが生じています。しかし、これほど大きなギャップを財政のみで埋めることは不可能です。
 BRICsも同様です。中国経済も世界的不況と似た動きになっており、対ロシア輸出は9割落ちも落ちています。その中で通貨の弱い国が、国民生活にさらなる大きな打撃を受けることも懸念されます。国際的協調で破綻の回避を試みるべきだと考えます。その意味で IMFの資金基盤増強合意は大切です。
 日本の経常黒字も急速に減っています。財政も金融もあまりやりすぎると通貨安など悪い意味での金利上昇懸念を抱えることになります。今までのように経常黒字がいくらでもあるから何をやってもいいというわけにはいきません。議会の介入主義・大きな政府が定着するリスクをうまくコントロールしながら限られた資源を効果的な政策に重点化する必要があります。
 大きな資本、大きなエネルギー供給体が利益を貪る時代は終わりました。
教育・雇用・医療・環境に資源配分が公正になされるべきです。
 キャッシュフローが減り続け、不良債権も積みあがるということでは、世界的な新たな金融危機が起きることも懸念されます。社会保障が充実し、医療費や教育費が無償で受けられる国と雇用を失えば、医療や教育の安心までも失う国とでは当然、対応も異なります。
 ガイトナー財務長官が出した1兆円の官民買取ファンドも不良債権用が圧倒的に大きい 不良証券の問題はギブアップしたのではないか懸念も出ています。アメリカの政策当局者の中には財政ファイナンスが危ないと見ている友人たちもおりますが、金融救済用の資金原則的には返ってくる資金でありGDPにも国際収支に影響しません。金融救済の金も含めて財政上のファイナンスをしなければいけないとうろたえると危機を拡大させてしまいかねません。
 冷静な対応と国際協調が大切です。危機の本質を見極めて人間の尊厳を保障する政策で世界が協調するならば、私たちはこの危機を乗り越えることができます。ファシズムは人々の格差に対する憤りを力の源泉にします。EU議会の友人の皆さんとの議論を通して、危機の克服し、世界の平和と安全への道筋をつけるための大きな枠組みを創造して参りたいと思います。皆様の益々のご活躍と日本・EUのさらなる友好をお祈りいたします。たくさんの祝福がありますように!ありがとうございました。
 


 




現下の経済・金融情勢に対する国際行動の評価
並びに日本とEUにおける金融危機への対応に関する比較分析
論点整理メモ(国会図書館)

2009.4.6

現下の経済・金融情勢に対する国際行動の評価
並びに日本とEUにおける金融危機への対応に関する比較分析
論点整理メモ


1.これまでの国際的対応についての評価

○リーマン・ショック後(2008/9~)の世界各国による金融・経済危機への対応は、世界大恐慌(1920年代末~)当時の各国の対応に比べれば、全体として一定の評価ができる。
 
◇ 財政出動のタイミングや規模
   
【世界大恐慌の当時】   
…恐慌の発生(1929年秋)から財政支出の拡大(アメリカのニューディール政策等)へと舵が切られるまでに、約3年を要した。
…積極的な財政出動を行った国は、一部(アメリカ、ドイツ、日本など)に限られていた。
   
【今回の危機発生後】   
…約半年の間に、多数の国々が、ケインズ主義的な有効需要拡大策(減税を含む)を打ち出し、実行中。
…財政出動の規模は、これから2010年にかけて実施する予定のものを含めて、G20合計で約5兆ドル(世界のGDPの1割程度に相当)。

 ◇ 金融政策面での対応
   
【世界大恐慌の当時】  
    …主要国の中央銀行が、金本位制を守るために金融を引き締めた結果、デフレがかえって深刻化。
   
【今回の危機発生後】    
    …主要な中央銀行が、金利を適宜引き下げるとともに、民間債務(CP等)の購入などの非伝統的な政策にも踏み込みつつある。

 ◇ 国際的な協調姿勢
   
【世界大恐慌の当時】 
    …各国による非協調的な行動(関税障壁の設定、通貨の切り下げ等)を背景に、米国発の恐慌が全世界へと拡大。
…1933年6月に世界経済の回復策を協議した「ロンドン国際経済会議」(国際連盟が主催)も、米欧の対立から決裂。

【今回の危機発生後】
     …2回の金融サミットにおいて、総論的には参加国(G20)の協調姿勢を維持。

○ただし、各論の領域では、様々な論点が浮かび上がってきているのが実状。
  ⇒ 欧州と日本による危機対応の比較を通じても、具体的な論点が明らかになる。
2.金融危機に対するこれまでの対応(欧州と日本)

(1) 欧州による対応

①マクロ経済政策(景気刺激策)

(i) 裁量的財政政策(減税を含む)
○各国による経済対策の発動
・イギリス:付加価値税率の引き下げ、公共投資の前倒し等
・フランス:インフラ投資、投資減税、住宅・自動車・中小企業対策等
・ドイツ:インフラ投資、住宅投資への補助金給付等
○EUも、総額2,000億ユーロ(対GDP比1.5%)の経済対策を加盟各国に提案(2008/11)
 ・エネルギーや情報通信に関連したインフラ整備(EU予算を50億ユーロ追加)など
○ただし、第2回金融サミット(2009/3)では、フランスやドイツを中心に、これ以上の財政出動には慎重な姿勢。

(ii) 金融政策
○ECBが小幅の利下げを繰り返すも、足元の政策金利は、他の中央銀行に比べ高水準。
○イングランド銀行は、政策金利を0.5%まで引き下げに加え、CPの買い取りも実施。

② 金融システム安定化策
○これまでのところ、資本注入が中心。不良資産の買い取りにまで踏み込んだのは、英国のみ。

③ 危機を巡る国際協調
  ○国際的な金融規制の強化
・ヘッジファンド等の投資行動そのものの規制や、統一的な監督機関の設置を主張。
  ○保護主義の防止には、総論として賛成。
  ○IMFの融資機能強化に協力。新興国・途上国の発言権拡大についても、一応容認。

(2) 日本による対応

①マクロ経済政策(景気刺激策)

(i) 裁量的財政政策(減税を含む)
○3回の対策による財政出動の合計は、約12兆円(定額給付金、住宅ローン減税等)。
  ○次回の対策には、公共投資の拡大も盛り込まれる見込み(積極的な財政出動を求めるアメリカに配慮)。

(ii) 金融政策
○日銀による2回の利下げ、民間債務(CP、社債等)や株式の買い取りなど。

② 金融システム安定化策
○「金融機能強化法」に基づく資本注入枠の再設置と拡大(12兆円)等。

③ 危機を巡る国際協調
  ○国際的な金融規制の強化について、欧州ほどには強く主張していない。
  ○保護主義の防止に賛成。
  ○IMFに対する1,000億ドルの貸出を表明。新興国・途上国の発言権拡大に比較的寛容。
3.欧州と日本のこれまでの対応から浮かび上がってくる論点

(1) マクロ経済政策を巡る論点

 ① 裁量的財政政策(減税を含む)

  ◆ 一段の財政出動に踏み込むべきか。

○欧州:これ以上の財政出動には慎重(財政規律の低下や、ユーロの信認低下を懸念)。
 ・2009年の財政赤字(▲4%の見込み)は、「安定成長協定」の上限(▲3%)を超過。
○日本:米国(各国に対GDP比2%以上の財政出動を要求)に追随。
 ・近々発表の追加経済対策を巡り、10兆円(GDPの2%)以上の財政出動を検討中。
○財政規律の低下がもたらす弊害について、欧州と日本は、歴史的にトラウマを共有。
 ・ドイツ…ワイマール共和国におけるハイパーインフレ(1922~23年:月平均322%)
 ・日本 …第二次世界大戦終了直後の高インフレ(1945~48年:年平均277%)
○思い切った財政出動のメリット・デメリットに関する比較考量が不可欠。

  ◆ 財政支出から民間需要へのバトンタッチは円滑に進むか。

○今回の急激な景気悪化をもたらした要因の1つは、外需(=輸出-輸入)の落ち込み。
 ・日本:アメリカの景気悪化が、外需の急減を通じて、国内景気を直撃。
 ・欧州:日本と同様に、外需依存度が高い国が域内にみられる。
     (例)ドイツ…中・東欧向けの輸出減少が国内景気を下押し
○今回の不況からの脱出を外需の回復に依存している限り、不確実性を払拭できない。
 ・財政支出の増加が民間需要(個人消費、設備投資)の拡大を誘発するメカニズムが、今後働いてくるか否かがポイントに。

  ◆ 危機対策への貢献度を財政出動の規模だけで判定することは適当か。

○アメリカと比べた欧州の特徴=社会保障制度(失業保険制度、公的医療等)が充実。
 ・不況下で財政支出が自動的に増加し、景気を安定化(ビルトイン・スタビライザー)。
 ・安全網の充実を背景に、消費者心理の大幅な悪化を回避できるというメリットも。
○日本の社会保障制度は、欧州に比べ見劣りした状況 …非正規雇用者向けの安全網等
 ・これまでの経済対策に盛り込まれた施策(雇用保険料率の引き下げ、雇用保険の適用範囲を6か月以上の雇用見込みにまで拡大等)だけでは不十分。
   ○ビルトイン・スタビライザーや安全網を視野に入れることは、資源が有限であるなかでの政策論議という観点からも重要。

 ② 金融政策

  ◆ 一段の金融緩和の余地はないのか。

○ECBの金融政策
・リーマン・ショック後、6回の利下げ。
 …しかし、足元の政策金利(1.25%)が、日銀(0.1%)や米FRB(0~0.25%)を大きく上回る。
・非伝統的な政策手段(CPの買い取り等)には、未だ踏み込んでいない。


   ○日銀の金融政策
    ・民間債務(CP、社債)や株式の買い取り、市中からの国債買い切り拡大等を相次いで打ち出す。
    ・一方で、かつてのゼロ金利への復帰については、現時点で慎重な姿勢。
   ○更なる金融緩和に踏み切るべきか否かの判断に当たっては、日銀の1990年代末以降の経験(ゼロ金利政策、量的緩和政策)が参考に。
     …ただし、これらの政策による実体経済の押し上げ効果は、乏しかったとの見方も。

(2) 金融システム安定化策を巡る論点

  ◆ 不良資産問題への対応は十分か。

○マクロ経済政策の実効性を高めるためには、「景気刺激と不良資産処理の一体化」が不可欠との見方あり。
○欧州の場合、公的資金に基づく銀行への資本注入が相応に進展するも、不良資産の買い取りには遅れ。
 ・欧州委員会による「不良資産処理対策に関する共通指針」(2009/2/25)
   …イギリス以外の大陸欧州諸国(フランス、ドイツ)は、今のところ指針に沿った取り組みに消極的。
・しかし、中・東欧諸国の景気悪化(=西欧にとってのアキレス腱)は、損失に見舞われた西欧金融機関の融資余力低下が主因。
   …悪循環(中・東欧の景気悪化 ⇔ 西欧金融機関の損失拡大)を断ち切るためにも、西欧各国における不良資産の抜本処理が不可欠。
○日本の金融システム安定化策も、現時点では、資本注入のみにとどまった状態。
○欧州・日本ともに、2009年3月に「バッドバンク構想」(官民共同の不良資産買い取りファンドの創設等)を発表したアメリカの姿勢に倣う必要はないか。

(3) 国際協調を巡る論点

 ① 国際的な金融規制への対応

  ◆ 規制と経済効率のどちらを重視すべきか。

○この問題を巡り、欧州と米国の主張が激しく対立
・フランス、ドイツを中心とした欧州
  =経済効率の低下をも覚悟の上で、国際的な金融規制を強化すべきであると主張。
    …米国型の緩い金融規制の被害者としての意識(新興国と利害が一致)
・アメリカ
  =規制の強化は、経済効率の低下を通じて、不況をかえって深刻化させかねないと主張。
    …経常収支赤字国として、過度な投資規制が資金流入を妨げることを避けたい。
       …もともと金融産業への依存度が高いなかで、同産業の国際競争力を保ちたい。
   ○ただし、欧州も一枚岩ではないはず。
・域内に、金融産業への依存度が高い国がある(イギリス、アイルランド等)
   ○日本は、アメリカに近い立場。
・近年において、金融業の国際競争力強化を企図していた(金融庁「金融・資本市場競争力強化プラン」(2007/12))。
   ○規制の度合いと経済効率性との間にトレード・オフの関係が認められるなかで、どこに落とし所を見出すべきか。

  ◆ 規制強化のための具体的方法論について、どのように考えるか。

○何らかの規制強化が必要であるとした場合の具体的な方法論のあり方も焦点に。
 ・欧州:直接的・人為的な規制の必要性を主張
   …投資行為そのものの規制、金融監督のための国際的統一機関の創設等
    ・米国:間接的・非人為的な規制の導入にとどめたい意向(日本もこれに近い立場)
      …ヘッジファンド、格付会社等を巡る情報開示の強化(→市場を通じた規制)
   ○それぞれが主張している方法論のメリット・デメリットを慎重に見極めるべき。
    ・直接的・人為的規制
      …監視のためのコストがかかる、政策判断の客観性が保ちにくい等のデメリットあり。
    ・間接的・非人為的規制
…監視を市場任せにすることで、規制の実効性が低下する恐れ。

 ② 保護主義の防止

  ◆ 保護主義阻止の実効性をどのように確保するのか。

○戦前の世界大恐慌の教訓(各国の保護主義的対応により、世界貿易がスパイラル的に縮小)等もあり、保護主義台頭の阻止という点では、主要国の方向性が一致。
 ・第1回金融サミット(2008/11)…先行き1年間は、保護主義的な措置を禁止。
 ・第2回金融サミット(2009/4) …禁止期間を延長(2010年末まで)
○EUも保護主義に反対の立場。しかし、域内には矛盾した動きも。
 ・EU:関税の復活(穀物向け)、輸出補助金の再開(乳製品向け)
 ・フランス:自動車メーカー(ルノー・プジョー)に対する政府融資
○一方、貿易依存度が高い日本にとって、自由貿易の維持は死活問題。
   ○世界全体としての現状は、「総論賛成・各論反対」。
⇒現状を克服するための枠組み作りが必要。

 ③ 国際機関を通じた新興国支援への対応

  ◆ IMF改革にどのように対処すべきか。

○IMFの融資機能強化という点で、EUと日本の足並みが揃った状態。
 ・EU:IMFに対して1,000億ドルを融資する意向(2009/3、EU首脳会議)。
   …「中・東欧リスク」を抱える欧州にとって、少なからぬメリット。
 ・日本:IMFに対する1,000億ドルの融資を表明(2008/11、第1回金融サミット)
   …アジア各地に生産拠点を抱える中で、国益にも適う。
○中国も、潤沢な外貨準備を背景に、IMFへの資金拠出(400億ドル)を表明。
 ・ただし、その条件として、IMFの意志決定を巡る発言権の強化を要求。
○EUと日本は、新興国・途上国の発言権拡大を基本的には容認する姿勢。
 ⇒しかし、EUも日本も、それに伴い深刻なジレンマに直面しかねない。
 ・EU:自らの優先的地位(アメリカに次ぐ発言権、専務理事ポストの配分等で優遇)の動揺
 ・日本:優先的地位(IMF総会における事実上の拒否権を保有)にあるアメリカが、新興国・途上国の発言権拡大を歓迎していない。

以   上