他国等からの原子力発電所への弾道ミサイル攻撃に関する質問主意書
平成二十七年一月九日閣議決定された「参議院議員山本太郎君提出『九州電力株式会社川内原子力発電所への弾道ミサイルによる武力攻撃に対する国民保護計画』に関する質問に対する答弁書」(以下「山本主意書に対する答弁書」という。)において、政府は、「『川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル攻撃の直撃を受けた場合、最大でどの程度の放射性物質の放出を想定するのか』及び『避難計画・防災計画作成の必要性は最大で何キロメートル圏の自治体に及ぶと想定しているのか』とのお尋ねについては、仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたい。」と答弁している。また、七月二十九日の参議院平和安全特別委員会においても、質問主意書を提出した山本太郎委員からの「九州電力川内原子力発電所の稼働中の原子炉が弾道ミサイルの攻撃を受けた場合、最大でどの程度放射性物質の放出を想定しているのか」という質問に対し、政府は、「弾道ミサイルによって放射能が放出されるという事態は、想定していない」と答弁している。
右を踏まえ、以下質問する。
一 山本主意書に対する答弁書において、他国等による特定の施設への弾道ミサイル攻撃に関する想定については、「仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたい」としている。ここにいう「仮定」とは、「川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル攻撃の直撃を受ける」という想定自体が「仮定」であるということか。
二 現在、ホルムズ海峡は機雷封鎖されていないのであるが、安倍総理は、「仮に、この海峡の地域で武力紛争が発生し、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合には、かつての石油ショックを上回るほどに世界経済は大混乱に陥り、我が国に深刻なエネルギー危機が発生し得る」とし、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に該当するとして、新三要件を満たす状況である、としており(平成二十七年二月十六日、衆議院本会議)存立危機事態における武力行使としてホルムズ海峡における機雷掃海を行う可能性がある旨を答弁している。
他方、現在、我が国の原子力発電所は攻撃されていないのであるが、仮に、我が国の原子力発電所に他国から弾道ミサイルによる武力攻撃が発生した場合には、新三要件を満たすと考えられる。両者は、集団的自衛権か個別的自衛権かの違いはあるものの、「仮定の質問」であることにおいて共通する。ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合における掃海活動が想定できるにもかかわらず、原子力発電所への武力攻撃があった場合における放射性物質等の放出の状況把握、国民保護法制に基づく住民保護措置等については「仮定の質問」だから答えられないというのは矛盾するし、国民の生命、自由及び幸福追求の権利を保護する責任を有する政府として無責任であると考える。改めて、「川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル攻撃の直撃を受けた場合、最大でどの程度の放射性物質の放出を想定するのか」及び「避難計画・防災計画作成の必要性は最大で何キロメートル圏の自治体に及ぶと想定しているのか」を問う。
三 「弾道ミサイルによって放射能が放出されるという事態は、想定していない」という政府答弁の意味するところは、①「弾道ミサイルという手段による原子力発電所への攻撃を想定していない」ということか、あるいは②「弾道ミサイルにより原子力発電所が攻撃されたとしても、当該攻撃により放射能が放出される事態は想定していない」ということか。
四 政府は、「弾道ミサイルによって放射能が放出されるという事態は、想定していない」と答弁しているが、安倍総理は「我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容する中で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う平和安全法制の整備が必要不可欠であります」と答弁(平成二十七年五月二十六日、衆議院本会議)し、また、「国民の命と平和な暮らしを守るための、グレーゾーンから集団的自衛権の一部容認に至るまでの切れ目のない法制を進めていく。起こってから考えればいいではないかという人がいますが、それは、まさに安全保障の議論においては、起こらないようにしていく、未然に防ぐことに力を傾注していくのは国民の命を守る責任ある立場としては当然のこと」と答弁(平成二十七年五月二十七日、衆議院平和安全特別委員会)していることから、平和安全法制整備は、あらゆる事態を想定し、その対処に遺漏なきを期する趣旨と考えられる。「想定していない事態」が存在するということは、安倍総理の答弁と矛盾するのではないか。
五 以上を踏まえ、政府としては、国民の命を守るため、「弾道ミサイルによって放射能が放出されるという事態」も想定した対応を検討すべきではないのか。
右質問する。
衆議院議員原ロ一博君提出他国等からの原子力発電所への弾道ミサイル攻撃に関する質問に対する答弁書
一について
他国等からの弾道ミサイル攻撃に関する想定については、政府として特定の施設についてお答えすることは差し控えるが、御指摘の答弁書(平成二十七年一月九日内閣参質一八八第一四号。以下「先の答弁書」という。)一についてにおいては、「川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル攻撃の直撃を受けた場合、最大でどの程度の放射性物質の放出を想定するのか」及び「その場合の避難計画・防災計画作成の必要性は最大で何キロメートル圏の自治体に及ぶと想定しているのか」とのお尋ねについて、「仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたい」とお答えしたものである。
二について
お尋ねについては、先の答弁書一についてでお答えしたとおりである。
三から五までについて
御指摘の「弾道ミサイルによって放射能が放出されるという事態は、想定していない」という答弁は、
平成二十七年七月二十九日の参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会における田中原子力規制委員会委員長の答弁(以下「田中委員長答弁」という。) のことと思われるが、弾道ミサイルが発電用原子炉を直撃するような事態は、発電用原子炉設置者に対する規制により対応すべき性質のものではないという趣旨を述べたものである。
一方、ある事態が、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号に規定する武力攻撃事態又は同法第二十五条第一項に規定する緊急対処事態に該当すれば、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)等の関係法令に基づき、被害を受けた原子力事業所の外へ放出される放射性物質又は放射線による被害等への対応を含め、住民の避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置等を迅速かつ的確にとることとしており、御指摘の安倍総理の答弁は、このような前提で述べたものである。以上のことから、田中委員長答弁が安倍総理の答弁と矛盾するとの御指摘は当たらないと考える。